私が宮司になるときに

私が宮司になるときに ⑮審判の時

鳴らない電話

その時を私は実家で待っていた。仏間で父親と話しながら過ごしていた。

13時から始まったその会議は1時間を越えても終わることは無かった。会議が終わると私に電話が掛かってくる事になっていた。

1時間半を越えて連絡はない。

話がまとまらないんじゃない?

と父親に話しかけると父親は黙っていた。

その時の事を良く覚えている。私にはソワソワなんてものは無かった。もちろんワクワクもない。あったのはない、つまりは無。何にも考えていなかった。呼ばれたら行こうくらいだったかな。

ただただ椅子に腰掛け電話が鳴るのを待っていた。テレビを観るわけでも無く、新聞を読むわけでも無く、どこか一つの方向を向いてただ時が過ぎる。待つ時間が長いとも感じなかったな。

この会議の前に、総代長さんが「必ず話をまとめるから安心していて下さい」とおっしゃっていた。もうそれだけで十分だ。

座して待つ

ただ座して待つ。2時間が過ぎた頃に電話が鳴った。

下村さん、社務所の方へお越し下さい。

私は父に行ってくると言い残し、八坂神社へと向かう。社務所のドアを開けると総代達が難しい顔をして座っていた。私が入ってから少しの間静寂があり、その中で年齢の若い総代が笑顔で私に話しかけてきた。

下村さん、一生懸命やってくれよな

下村さん、氏子の意見もちゃんと聞いてくれよな

これで大体の察しはつく。

その後、総代長が場を引き締めるように切り出した。

総代会は全員賛成で下村さんを宮司に推挙いたします。

と。

この瞬間、私は宮司になることを許されたのだ。

そう、許されたのだ。

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