私が宮司になるときに

私が宮司になるときに ⑥宮司の死

私の行き先は何処へ

それからわずか2日。私の携帯に連絡があった。

禰宜さん「宮司が亡くなりました」

私はあまりの突然の出来事で茫然自失になった。わずか一週間で人は亡くなってしまうんだろうか?

これから私はどうなっちゃうんだろう?

この1年、前述の通り宮司は私のことを後任の宮司にさせないような話を守谷市内の兼務神社で話し始めていた。

私はそれでも別に構わなかった。私は人間関係のつまらないトラブルで地域の方々に私という人間を誤解される方がよっぽど痛手だと思っていたからだ。しかし、八坂神社に関しては総代とどんな話をしていたのか分からない。自分の拠点となる神社がなくては仕事が成り立たない。私は宮司から後は任せたと言われないままに終わってしまった。私ではない別の人間が八坂神社の宮司に就任してもかなわない。ただ、しっかり仕事をさせてほしい。おそらく、兼務の宮司に本務の禰宜というスタイルは無理だろうな。本業でやろうとすればやるほど無理だろうな。残念だけれど、兼務の宮司にとって兼務の神社を本務神社の様に運営するのは何の得もないし面倒な仕事が増えるだけ。私の存在が疎ましく感じてくるのは目に見えている。自分の将来は宮司の死によってどこに流れていくんだろう?

宮司の元へ

私は宮司が亡くなったことを支部の神職へ連絡した。私の所属する支部は守谷、取手、藤代、利根で構成されている。連絡後、すぐにみんなで宮司(支部長)の元へ行こうと言うことになった。私は守谷地区の神職と一緒に宮司宅へ向かった。その車中、私は窓の外をずっと眺めていた。何ともいない複雑な心境だった。本当に何とも言えない…。そして自宅に着く。和室では宮司が横になっていた。もう話すことはない。まさかあの決算報告が最後になるなんて夢にも思わなかった。支部の宮司さんたちがご家族と話をしている。若い神職は泣いているものもいる。

私は涙を流さない。

私の祖父が亡くなったとき、納骨をする際に大勢の前で私は涙してしまった。嗚咽するほどに。私にとって祖父の死は人生で初めて身内がいなくなるという経験だった。泣いてしまった。その時に私はもう泣かないと決めた。神職たるものいかなる時も冷静でいなければならないと私なりに考えたからだ。別に泣いても良いと思いますよ。私はそう思ったというだけ。人の前で涙する事、それ以外にも感情的になることは良くないとその時に思ったんだ。人前で泣く、怒る、喜ぶ、楽しむ、騒ぐ、私の思う宮司像は冷静で平等で様々な状況で的確な判断が出来なければならないと思っていた。だから泣くのは止めようとその時に思った。だからその後、祖母が亡くなったときも父が亡くなったときも涙は流さない。昨年、幼なじみが不慮の事故で逝ってしまったときにも涙は流さなかった。一緒に行ったあいつは号泣してたな。祇園祭が文化財になって嬉しかったときも人前では泣かない。もし流すのであれば全てが終わって一人部屋にいるときでも良いだろう。

だから、私は亡くなった宮司と対面したときも涙を流さなかった。むしろ冷静であれと心で繰り返していた。

もしかしたら冷たい人間と思われる方もいるかもしれない。でも私が考える宮司の姿はそうだと考えている。なので人前では涙を流さない。お酒を飲んでも人前では決して潰れない。意見が食い違っても人前では決して怒らない。

宮司が人前で感情を露わにするときはよっぽどの時でなければならない。

私は宮司の職務を遂行するのにはどれだけ自分の感情を氏子さんの前で殺せるかだと思っている。冷静に冷静にだ。父は祇園祭の期間中に亡くなった。折角の氏子のハレの日に宮司がヘコんでいる姿を皆さんのお目にかけるわけにはいかないんだよ。

 

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