突然の知らせ
平成21年4月13日。この日は一言主神社の春の大祭。私は押しかけるように一言主神社さんに助勤奉仕をさせていただいていた。一人で神社にいると見えなくなってしまう事が沢山ある。祭式作法などが良い例だろう。一人だと忘れてしまうことが多い。多くの神職で奉仕する祭式は良い刺激になる。宮司さんや禰宜さん、権禰宜さんなどに色々と教えてもらったことは素晴らしい財産だ。先ずは5年頑張りなさいと一言主神社の宮司さんに言われてから既に8年。氏子さんの支えもあり何とか神職として食べられるまでにはなっていた。
そんな春季大祭の助勤の日、携帯電話が鳴った。宮司の本務神社禰宜さんからの連絡だ。
禰宜さん「宮司がICUに入って容体が悪い」
私「えっ?数日前にお目にかかりましたよ。その時に微熱なんて話はしましたけど、そんなに体調が悪いなんて感じじゃないような気がしましたよ」
禰宜さん「急に容体が悪化したんだよ」
とにかく状況を確認しないと。突然の知らせに動揺した私は現状を確認するために宮司の神社へと車を走らせた。
許せぬ一言
先に触れたこの事だ。
私は宮司の神社へ向かった。もちろん、社務所には誰もいない。ご家族は病院だ。こんな時に電話をしても良いものか?私はとりあえず禰宜さんに状況を教えてもらおうと呼び鈴を押した。
禰宜さん「どうぞ」
私「お邪魔します」
初めて入る部屋。何とも言えぬ独特な部屋だ。
私「突然の事で一体なんの病気なんですか?」
禰宜さん「○○○○○と言う病気で容体が急変して厳しい状況らしい」
私「厳しいんですか?」
と、尋ねる私に驚く返事が返ってきた。
禰宜さん「神社の後任宮司については文書で書いてあるから」
は?今ここでその話?人一人の命が危ないって時にそれ?今それが必要な事なの?ちょっと待てよ。そんな事はそうなってからの話だろ?まだ宮司は存命だ。ちょっと汚い言葉で申し訳ないが心の中でこう思った。
あまり俺をなめるなよ…
頭の中ではカチンときていた。それと同時に情けなさを感じていた。あぁ、この人は宮司の容体よりも後任宮司が誰になるかが最重要なのだと。宮司になりたくて仕方がないんだな。私は容体を伺いに来たのだ。こんな時に宮司が誰になるかなんて普通言えるか?人の死を待って宮司になる。こいつとは付き合いきれない。過去、私の名前を使って自らの要望を人をおとしめるように語る。臨終が近づくこの時に人事のことを口にする。こりゃーダメだ。世の中の仕組みを教えてやらないとダメだな。
私「後任宮司のことについて遺言をしているという事ですか?」
禰宜さん「そうだよ」
私「一応言っておきますけれど、宗教法人の代表役員は個人のものではないので遺言できませんよ。もし遺言があったとしてもそれはあくまでも希望です。法的拘束力はないですよ。代表役員は責任役員が選任するんです。宮司の地位は私物化できませんから。氏子さんが判子を押さなければ宮司にはなれませんよ。その辺を良く理解してお話しになった方が良いですよ」
禰宜さん「そうなの?」
私は自宅に帰ることにした。話していても無駄だと思った。社家には稀にこのような人物がいる。人の死を待って宮司になりたがる。くだらない。くだらなすぎる。臥薪嘗胆の気持ちで己を磨きなさいって。
敢えて言わせてもらう。あんた、そんな気持ちで宮司になったらいつか足元すくわれるよ。
こうなる予感はあったんだ
私にはこうなるだろうと予感があった。
私も宮司に嫌われたもんだなと思いました。結局は身内なんだな。私にはあれだけ身内に継がせたくないって言っていたのにな。私は実に情けない気持ちで帰途に就きました。宮司職って一体何なんだろう。譲ってもらうものなのか?氏子に認めてもらうものなのか?神明奉仕って何なんだ?答えはそのうち出るだろう。
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