祇園祭

平成最後の祇園祭は台風接近の中で

異質な台風が接近してきた

平成最後の祇園祭は変則的な台風12号が接近する中で行われた。

祭典初日の24日火曜日。式典は厳粛に行われ華やかな祇園祭の幕が開けた。ただ、そこでひとつ心配なニュースが入ってきた。台風12号の発生である。

その日から、私は毎日、数十分おきに台風情報を確認した。気が気でないからだ。皆さんの意見はどのように感じるか分からないが基本的に神社の祭礼に延期、中止はあり得ない。イベントではなく神事だからだ。氏子からは中止の意見は出てこない。私もそのつもりはない。なのでずっと延期や中止がないことをSNSで発信し続けていた。とは言ってもこれがなかなか理解されないんだ。氏子役員は分かってるんだ。なんで延期や中止がないことを。5年前ゲリラ豪雨で大雨、強風、雷雨でも最後まで行った。でも、一般の方にはそれが理解してもらえない。私は本祭りまで天気予報とにらめっこをしながら祇園祭をどのような形で収めるかを毎日考えていた。

問合せなのか文句なのか?

一般の方にはそれが理解してもらえない。金曜日くらいからそれは顕著になってきた。電話での問合せが社務に影響を与えるくらいの数になってきた。祭礼の準備が滞るくらいに。土曜日になると数分おきに電話だ。問合せは対応しますけどね、ちょっと問合せから大きく外れて自己主張?クレーム?になってくるんですよね。

  • 台風が接近するのにやるのか?
  • 風速35mだぞ。
  • 事故の責任は誰が取るんだ
  • 露天商が出ないのにやるつもりなのか
  • お祭りやれば見に行っちゃうんだから何かあれば主催者が責任とれよ

いや、一般の方は台風だって思うならば外出しないで家で待機すれば良いんじゃなのか?ただそれだけの話だと思うんだけどな?

ごめんなさい。厳しい言い方をすれば、神社の祭礼は見物客や露天商のためにやっている訳じゃないんだよ。あくまでも神事であって神様に向かって奉仕してるわけでこちらとしては無観客でもやるんですよ。

あと、冷静に天気予報を見てほしかった。TVは過去経験のないを繰り返していた。でも台風は茨城からはどんどん逸れていった。私達は最後の最後まで天気予報を確認してたんだ。

神社の祭りの仕組みはおそらく参加しなければ理解出来ないと思う。全て神社の責任でやっているわけではない。祭りは町民衆が主体となって準備していく。私達の仕事はそれに沿ったレールを作ることだ。露天商だって我々が許可を出して出店しているわけではないし、山車の巡行だって神社じゃなく各地区の青年会が責任を持って行っている。出す出さないも地区の判断だ。青年会の会長は立派に地区の青年達を仕切っている。私達神社の責任は神輿を出御して無事に還御すると言うことであり、それを安全に行えるための準備をすることだ。そこの最終判断は宮司である私がするわけで。

最終リミットは金曜日午後13時

さて、本祭り前日になった。私は緊急総代会を開催した。もちろん、本祭りをどのような形で収めるかだ。総代だって心配している方がいるだろう。意思疎通しなければ祭りの成功はない。金曜日午後13時に設定したのはこの時間が境内等の飾り付け撤去の最終リミットだったからだ。境内の奉納提灯など場合によっては撤去しなければならない。職人さん達の時間を考えるとこれが限界の判断時間だった。

私は3つの腹案を用意していた。もし、宮司の判断は?と聞かれたら

  1. 予定通りに行う
  2. 渡御区間と時間を短縮して行う
  3. 蔭祭りにする

だ。

私は会議に3つの資料を提示した。総代に客観的に判断できる材料がなければと思ったからだ。感情的に絶対に祭礼をやるんだでは事故が起きかねない。しっかりと台風の現状をみて神輿渡御が可能かどうか全員で判断し当日を迎えなければ。

一つ目は台風12号の予想進路。当初、神奈川県に上陸だった台風は三重県、和歌山県に上陸予定に変わっていた。


もう1つは守谷市の1時間おきの降雨と風速の予報だ。この予報で風速が常時10mを超えるようだと厳しいだろうと考えていた。強そうな雨が降るのは夕方のみ、それも6mmと出ている。


一番気にしていたのが守谷市に台風12号の暴風域が入る確率だ。数値は1%。かなり低い。


これらの資料をもとに会議を行った。総代の皆さんは斎行か中止かの話はなく、どうやったら無事に神輿を還御出来るかと言う話に集中していた。祭りはこうして予定通り行うことになった。境内の飾りも外さない。私の腹案など話す必要は無かった。総代さんも同じ気持ちで当日を迎えようとしていた。

そして、氏子総代を社務所待機組と神輿渡御組の2つに分けて、もしもの時はどちらの総代が渡御中止を言い出してもその方針に従うというルールを作った。

そうと決まれば氏子さんの準備は早かった。カッパの用意や警備本部の風雨対策。神輿の飾り付けの変更。本当にうちの役員さん達は頼りになる。こうして当日を迎えた。

そして本祭りを迎えた

朝、5時に起きてお風呂に入り赤飯を食べてから神社へ向かう。祭礼の朝のルーティーンだ。

9時から式典が行われる。

そして2時には出御だ。雨はまだ降らない。

午後3時過ぎて国道294号線を越えて土塔地区に入っていく。ここまで雨が降らない。予想以上に天気が持ってくれていた。有り難い。

そして、海老原町付近。時計は4時を過ぎてさすがに荒天となってきた。本当に有り難かったのは各御旅所(休憩所)では雨対策をして下さった。お迎えする氏子地区の方々も大変だったでしょうに。


暗くなる頃には大分雨も弱まり無事に神輿が神社に帰ってきました。
5年前のゲリラ豪雨の時の方が状況的には厳しかったと思う。


おかげさまをもちまして大団円で終えることが出来ました。


山車の方も盛況のようだ。みんな生き生きとお祭りを楽しんでいるようだった。


ある女の子が私に近づいてきてこんなことを言ってきた。

「今までで三本指に入るくらい楽しいよ」

総代さんたちも良いお祭りだったと美味しそうにビールを飲んでいた。やって良かったと思った。一般の人には分かってもらえないかもしれないけど。

天気が良く、露天が多く並んで、観光客が多い。その雰囲気を楽しむ。それが皆さんが思っているイベント的なお祭りかもしれない。でもこちらはそんな中に山車や神輿を巡行させ、事故がないかどうかで胃をキリキリさせながら神事としてお祭りを頑張っている。社務所にも考えられないようなクレームが来る。山車が邪魔で動けないとか。露天商の食べ物に異物が入っているとか。じゃ何しに来てるんだ?って思ってしまう。この日は露天商もなく人でも少なくって寂しい雰囲気だったかもしれないが、当人達はそのプレッシャーから開放されてノビノビと楽しんでいるようだった。お祭りは奉仕する氏子が主役である。主役が良いお祭りだったと言っているんだから宮司としてこれ以上の喜びはない。

祭りの後のSNSで

SNSでは本祭りを行ったことに対して喜びと驚きと一部批判もあったようだ。本当に匿名ってやつは自由でいいな。一度、堂々と名前と顔を出してその汚い言葉で面と向かって言ってみれば良いのに。そして、その言葉がもし自分に向けられたらとどんな気持になるかを考えてみたら良い。どんな思いで氏子が祭礼を行ったか何んてお構いなしで暴言を吐いてくる。私は責任者だから何を言われても構わないのでなーんとも思わないけれど。氏子に言われたらカチンとくるんだよ。その日までどんな思いで準備して、当日どれだけの苦労をして奉仕しているか知っているからね。

次の日、各地の直会の席で祭礼を行ったことに感謝と慰労の言葉を沢山頂いた。私は氏子は喜んでもらえたならばそれだけで満足だ。

神人和楽、神と人が和み楽しむ。

台風が近づいても良いお祭りでした。

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コメント

    • 三浦弘三
    • 2018年 11月 02日

    八坂神社の祭は台風が来ても中止にならないか、今から何十前に祭の予算がなくて中止になりました、運悪く疫病が流行り子供や年寄りが多く亡くなり増した、稲敷の大杉神社に行ってお札をもらい氏子全家庭に配布しました。それにより疫病が治まりました、これを境にどんな事があっても八坂神社の祭は中止にはしないと氏子集が信念を持って祭を行っています

      • chief priest
      • 2018年 11月 02日

      お祭りを絶えさせない信念は皆で共有していると思います。今年のお祭りも無事に終わってほっとしています。そうなんです。守谷の祇園はどんなことがあっても中止にしない。そんな信念もってやっているのは私も一緒です。

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