一般人が宮司になるまで

一般人が宮司になるまで ⑱祖父と父の死が教えてくれた事

私の祖父と父は夏の例大祭の直前にこの世を去っている。親子で仲が実によろしい。祖父の命日は7月20日。父の命日は7月18日。祇園祭は7月の最終土曜日。一番忙しい時に本当に迷惑な話だ(笑)まぁ誰も死ぬ日は選べないから仕方が無いよね。しかし、今思えば祖父と父の死は私にその時に置かれている私の現状を教えてくれているように思えた。前にも話したけれど私は父の骨を拾っていない。

神職になるときに宮司にはこの仕事は親の死に目にも会えないかもよと言われた。その時はそんな事なんてあるのかなと高をくくっていたが、実際に自分の身にそんなことが起きるなんてその頃は考えてもいなかった。甘かったのかもね。

祖父の死 

じいちゃんの死 平成15720

その日は一言主神社さんで助勤をしていた。権禰宜さんが私の元に慌てた様子できた。

権禰宜さん「下村さん、携帯が鳴りっぱなしですよ」

電話をかけ直すと祖父が危ないという知らせだった。私は早退し、内田病院へ向かった。初めて人が死ぬ瞬間を目の当たりにした。呼吸が静かになっていく。血圧が下がってくる。時が止まるようなそんな死だった。安らかだったなぁ。じいちゃんは最初、神職には大反対だったが最後は地鎮祭から帰ってくるようになると喜んでいた。友達がお茶に来ると最近、良弘は仕事があるんだよなんて軽口たたいてた。いや、そんなに仕事ないから。

葬式までにふと頭によぎったことがあった。祇園祭が近い。直前で身内が亡くなってしまった。このあたりの風習では近親者が亡くなった時、一年間は神社にお参りしない風習が残っている。一応、確認しないとな。私は氏子じゃない。神職だ。神社本庁規程類集というのがあり、神職の忌中期間は最大で10日間と定められている。祖父の場合は5日間。私にそんな風習は当てはまらないのは分かっているが一応確認をしなければと思い宮司に報告に行く。


「私の祖父が亡くなりました。祇園祭に奉仕することが大丈夫か確認させて頂きたいのですが」

宮司「神職服忌規程からも亡くなった日数的に問題ないから祭礼は奉仕しても大丈夫だから」

「それでは奉仕いたします。一応責任役員には宮司の了承があったことを報告しておきますので宜しくお願いします。ボク(この辺じゃ身内が亡くなったことをボクと言ってお祭りの参加を慎む)の事もありますし、地域の方にも氏子と神職の違いをよく説明しないと勘違いされても困りますので。」

宮司「ボクには困るよね。良く話しておいて」

「では、宜しくお願いいたします」


私は宮司の神社から自宅に戻り葬式とお祭りの準備をすることになった。今回は自分の判断で責任役員だけではなく、総代の元に伺い祭礼に奉仕する事を伝えた。色々あってもう疲れていたな。

プッツンと切れてしまった

葬式が終わった。昔ながらの自宅で葬式だったので大変でした。最後は自宅から雲天寺へ納骨に向かう。私は社家じゃないので実家は浄土宗です。初めての身内の死に不覚にも涙してしまった。納骨が終わり自宅に戻ると携帯に電話がかかってきた。宮司からだ。


宮司「下村君、祇園祭だけど奉仕は無しになったから」

「どういうことですか?」

宮司「代わりの助勤神職も頼んでおいたので祭礼には奉仕しなくて良いよ」


話を整理すると、ある氏子が身内が亡くなったばかりの神主に拝んでもらいたくないと言い始めたらしい。それは予想していたことだし、そのことを丁寧に説明しなきゃならないと思い、宮司宅に伺い神職の忌中期間を確認して総代たちには奉仕する事を伝えたはずだった。それでOKなはずだった。誰かが宮司に連絡を入れたらしい。そしたらあっさり奉仕するなと話が変わってしまった。私がここ何年も宮司にお願いしてきたことは、氏子は長く無人の神社だったので神職が神社で奉職することに戸惑っているからしっかりと神社の規則や規程を伝えて、神社で神職が働くことはこうなんですよと教化してもらいたいとずーーーっと頼んできた。なのに、私の知らないところで助勤の神職も決められていた。
この規則を見れば一目瞭然なのに。今まで色んなことに耐えてきた。しかし、私の忍耐は身内の死という非日常空間のなか、時限爆弾が設置されていたように感じられてきた。今まで色んなことがあった。

  • 神社の運営のこと
  • 節分祭でのこと
  • そして今回の祇園祭のこと

もういい加減にしてほしい。宮司に了承をもらってから役員に説明してきたことを宮司にちゃぶ台返しされるわけだ。その度に役員には私が勝手にやっていると勘違いされる。たまったもんじゃない。今までのストレスや祖父の死も相まって

プッツンと頭の中で音がした

私は電話口で初めてキレた。所謂マジギレである。葬式の後と祭りの準備中でストレスが溜まっていたたというのは言い訳になっちゃうけど、今まで何年も耐えていたリミッターも効果がなくなっていた。もうちゃぶ台返しの繰り返しはうんざりだ。私はただただ仕事をしたいだけだ。規則くらい守って仕事してくれ!法律や規則を上司に変えられたら部下はたまったもんじゃない。そして、そのごまかしの尻拭いはいつか自分に回ってくる。このままでは氏子にとっても奉仕する神職にとっても不幸な結末になるのは目に見える。これが無人の神社に奉職すること、そして社家じゃない人間が神職になることの大いなる壁なんだろうね。

横ではその電話を父親も聞いていた。何も言われなかった。いつものなら何言ってんだ!と怒るだろうに。理由はわからないけど何も言われなかった。

程なく、祇園祭は行われた。私は忸怩たる思いで祭礼を見ていた。本来ならば私も奉仕していなければならない祭礼だ。

私は後日、宮司に電話を入れた。謝罪の電話だ。私の未熟さ故の発言を許して頂きたいと謝った。だが、この件から元々かみ合わなかった二人の関係性が顕著に狂い始めた。

私は、この件も今の自分のポジションなんだと言い聞かせた。まだまだだと。実力、信用、実績、きっと全てにおいて不足しているのだろう。何度も言うが全ては気づきである。気づいて何が出来るかを考えなければ全ての経験は生かせない。良い経験も悪い経験も全ては繋がっているはずだ。頑張ろう…。祖父はそれを教えてくれたんだろうと。お前は、まだまだなんだぞと。

ただ、この11年後に同じ状況がやってくるとは夢にも思わなかった。今度は父ちゃんが逝ってしまった。

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