8月に直階の資格を取り、10月には八坂神社の禰宜に任命された。禰宜とは部長など中間管理職みたいなものだ。でも禰宜になったからと言って給料が出るわけじゃない。なので相変わらずの無収入だ。ここで一つの疑問があるんだけど、神職って職業なのかな?職業の意味を検索すると『生計を立てるために日常従事する仕事』とでる。でも禰宜になったからって給料がでる訳じゃない。就任申請するときは給料はいくらだすって記入するんだよ(笑)宮司は会社で言えば社長だ。この神社は兼務神社で宮司は不在、つまり社長は名前だけで普段はいない。自分の本務神社で活動している。社長が不在なら給料が出るわけない。訳あってこんな無収入状態が数年続く。いつかお話ししようと思うが、このような神社界特有の問題をクリアしない限り純粋な一般の方、つまり社家でない方が地域の無人神社に宮司になって奉職するのはほぼ無理だと思う。お陰様で私は数年かけてクリアできた。そこまでたどり着くのに色々あったが多くの氏子総代の理解があってこうして奉職している。有り難い。
忘れられない風景
私は禰宜になった。とりあえず何かしないと始まらないなと思い、鍵を管理している人に頼んで神社の鍵を借りた。掃除しようと思ったんだ。職場になるんだし。ただ、初めて社殿に入ったその時の風景と臭いは今でも忘れることが出来ない。カメムシの大群、埃、そしてそれらが醸し出す特有の臭いのハーモニー。とにかく顔を手で覆った。たまったもんじゃなかった。境内を見れば雑草だらけ。
「ここが職場になるのか…」
ちょっとした焦燥感が出てきたが後には引けない。先ずは掃除をと思いハタキで叩く。すごい埃だ。カメムシを退治する。カメムシって臭い。当時の神社は無人だし、お祭りの時にしか掃除はしないし仕方が無いよな。この頃は、時間を見つけては社殿を掃除し、草をむしり、境内の石を拾っていたな。これじゃ働けないって気持ちの焦りが大きかった。バイトをしながら、宮司の元で教えを請いつつ、八坂神社で出来るだけ掃除をしていた。この頃は祈祷する道具もないしはっきり言って祈祷する能力も無い。学校ではそこまで教えてくれない。資格を取ったからと言って何が出来るわけでもない。出来ることと言ったら掃除することぐらいだ。1日神社にいて掃除していても当時はお参りに来る人は数人来るか来ないだったな。でも、何日も掃除していると顔見知りになってくる。ある日、手水を掃除していたら声をかけてもらった。
「いつもご苦労様です」
心に染みたな…
忘れられない言葉
資格を取ったことを聞きつけた氏子さんが私の元にやってきた。その時に言われた言葉が今でも忘れられない。
「先生!ちょっとよろしいですか?」
先生?いきなり先生と呼ばれた。これには本当に恐怖した。この前まで何でも無い青年がいきなり先生と呼ばれたのだ。私がイメージする先生は教師、医者、政治家、弁護士、税理士…
これはマズイ…私は先生と呼ばれる資格はない。いや、神職が先生と呼ばれる職業なら資格はあっても能力が全くない。本当恐怖した。これは死ぬ気で勉強しないとマズイ。先生と呼ばれる事に応えられる自分を作らなければならない。この言葉がきっかけで必死に勉強を始めた。知識が無ければ先生と呼ばれる資格は無いと思ったからだ。
4年間大学に通い神職の資格を取れば若くても高等な階位を取得しある程度の知識を持った神職からスタートできるかもしれない。でも私に資格取得に与えられた期間は1ヶ月だった。現実を痛感した。自分が情けない。しかし、こう言うことの繰り返しや気付きが大切なのだろうと思った。ただただ頑張ろうと空を仰いだ。
てすと
一般人から神職 宮司になられたいきさつを読ませて頂きました。現在に至るまでは山あり谷ありの棘の道でしたね。この世界はなかなかの封建的な風習が残っていると思います。都会の大きな神社では権禰宜でも就職できれば世間に比べれば低いものの給料がでます。しかし、地方では、何十社と兼任しているのを聞きますが、勤めを果たすにしても、その前に生活していかなくてはなりません。従って、兼業(教師等)が多い。これは、私が中学、高校の時の教師の中に寺の住職が多かったのと同じです。
通常は、宮司(父)-禰宜(息子)のパターンですが、一般人からというのはめずらしいと思います。大学や養成所があるから結構おられるのかもしれませんが。しかし、これだけの紆余曲折があられたのは、某神社の宮司と役員会で決定したのをひっくり返した総代とかの人間関係ですかね。責任役員会で決まったのを一介の総代ごときがと思いますが、この世界は会社のような上下関係はありません。皆さんそれなりの発言をされます。ボランティアー寄付もしますし、神社から報酬を得ているわけではありませんから。
写真を見るとなかなかの神社だと思いますし、社務所も広い。私も最近はあちこちの神社に参拝に行っております。とはいっても茨城県は遠い。お聞きしたいこともありますが、今回はこれまでの感想ということで。