一般人が神職になるということは

一般人が神職になるということは ⑤最後の祇園祭

私は本当にお祭りが大好きでね、氏子としての最後の祇園祭はなんとも言えないものだった。

私の生まれた地区は守谷市上町という地区で幼稚園の頃から山車を引いていました。それが当たり前だった。小学校に入り高学年になれば太鼓の練習。6年生にもなるとひょっとこの練習。高校生になると青年会に入り夜の部も山車を引けるようになる。それが何とも待ち遠しい。練習は2週間前から。練習開始日が待ち遠しかった。練習から後片付けまで全てが楽しい。もちろん祭には付きものの喧嘩もあったけど(笑)楽しさの裏返しは苦しさだ。苦しさがあって初めて楽しいと思える。だからお祭りは大変なんだよ。でもそれが私達には当たり前のことで、今でもこの一連の経験が自分を構成しているものの一部だと思っている。。

もうそれが出来なくなるんだな…(実際はこの年から出来なかったけどね)

練習が始まると、酒の席で同級生や先輩などから色々と聞かれる。幼なじみが
「もう太鼓とかひょっとこ出来なくなるんだろ?お前それで良いのかよ」
と聞いてくる。お互いに一抹のさみしさがあったんだろう。

年上の方々は
「無人の神社で何すんの?」「仕事はなにするの?」「馬鹿じゃないの?」
なんて行ってくる。悪気は無いと思うんだ。本当に率直に思ったことを聞いてきたんだと思うし。自分じゃなく友達が神職になるから山車をやめるって言ったきたら同じ事を聞いてたと思う。だって、八坂神社はずっと無人だったんだから。そこに神職がいて働いている事をイメージできるわけがない。何より資格を取りに行こうとしている本人ですらよく分かってないんだから。お祭りの意義もよく分からなかった。山車には五穀豊穣や天下太平などの文字が書かれていた。そういうことを祈るんだなと思っていたくらいだ。病気を鎮めるためにやっているなんて知識も当時は無い。毎度の台詞になるが無知なんだ。何を言われても仕方が無いと思う。

さて、程なくして御出遣祭という祇園祭初日を迎えた。日中の準備の時に蔵から神輿を出して社殿に収める。その作業を手伝おうとしたらある人に注意された。
「下村さんは神職になる人なんだからやらなくて良いよ」
これは氏子の仕事と言うことなんだろう。初めて立場が変わってきたことを感じた瞬間だった。氏子と神職。ここにはしっかりとした線引きがされているんだなと。夜になり、式典が行われた。その前に守谷市のもう一人の宮司と初めて対面した。その方も跡継ぎがいなかった。
「下村さんは良くやる気になったなぁ。うちの方も将来的には頼むよな」
と言う話だった。守谷市には16社の神社があって9社がを取手の宮司が、7社を守谷の宮司が管理していた。八坂神社は取手市の宮司の兼務神社。兼務神社とは分かりやすく言うと普段は宮司が常駐せずにお祭りの時にだけ祈祷にやってくるという神社だ。なので兼務神社に宮司が顔を出すのは多くて2回くらいだろう。式典には総代も参列するので改めてご挨拶をした。とにかく、顔を覚えてもらわないことには何も始まらない。私の中では祇園祭を楽しむなんて気はもう無くなっていた。

そして最終日の本祭り。いつもなら午前9時くらいから山車の準備をしてお昼頃出発してと言う流れだが、今年はスーツ姿で神輿と一緒に歩く。今思えば一人だけ完全に浮いていたな…半被集団の中にスーツが一人。私を見た人たちはどう思っていたんだろう?神職になろうとしている私は世間からどのようにとらえられていたんだろう?

神輿の渡御の中、若い私は他の町会役員さんが誰なのかなど知るよしもなく、周りは知らない人ばかりでその中を一人スーツでひたすらついて行った。その日は暗中模索、手探り状態で長く感じた1日だったような気がする。

夜になって、スーツからひょっとこの衣装に着替えて最後の祇園祭を楽しんだ。とは言っても数時間だけね。お祭りが終わる前にもう一度社務所に行き宮司に挨拶をした。
「お疲れ様でした。これからよろしくお願いします」
と。

寂しさだけが残る最後の祇園祭だった。

氏子として自分なりにケジメはつけた。もうお祭りをやることはないだろうと自分に言い聞かせた。

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