一般人が宮司になるまで

一般人が宮司になるまで ①ボタンの掛け違い

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研修を終えて資格を取得した私は仕事を始めなければならなかった。もう20代後半になる。いつまでも無収入という訳にもいかなかい。

「神職一本で頑張ろうと思います」

そう話すと宮司は複雑な表情をしていた。嬉しそうな困ったような少しの間、落ち着きの無いような。思い返せばこのときからボタンの掛け違いが始まったのかも知れない。私の望もうとしていた風景と宮司が連れて行こうとしていた風景が違っていたんだ。直階講習会が終わった頃から薄々と気がついていた。車の運転手を任されていた時の車中の会話でも違和感をずっと持っていた。だから私は正階講習会で休み時間を利用してまで大学の教授に質問をしていた。適切な神社の運営はどのようなものなのか?

私はこの道で食べていこうと最初から決めていた。神社に骨を埋める覚悟で資格を取りに行ってきた。もう、他の職業に就くつもりもなかった。でも宮司はそうではなかった。私に求めてきたのは本務神社になっても兼務神社みたいにやれば良いじゃないか、と言うことだった。つまり、普段は何もしなくてもいい。お祭りの時だけ拝んであとは地鎮祭をやっていれば良いんじゃないか、という話だ。分かりやすく言えば会社員ではなく個人事業でやれと言うことになる。しかし、法律上発生する神社の責任は全てを負いなさいという話になる。だから、神職一本で働くとなったときに思い描いていたものと違ってきたので驚いたんだと思う。

神職で食べていくという事は聖職者としては宮司として毎日神社に出社し、清掃をし、祈祷をし、お守りを頒布するなど宗教活動をすること、そして代表役員として神社を管理運営すると言うことになるからだ。宮司はそこまで望んでいなかった。常々言っていたの守谷クラスの町に1人くらい宮司がいないとなと言っていた。だからそんな風に話をしたんだと思う。でも私としてはそれでやれるわけがない。これで宮司になったら同時に代表役員にもなるわけで法律上の責任だけは大きく、実際の神社運営は何も出来ない。リスクが大きすぎる。この問題は何年もかけて宮司と話し合うことになる。その話もいつかまた。

神社で働くってどんなイメージ?

皆さんは神社で働くことをどういう風に思うだろう?個人事業だと思いますか?ボランティアだと思いますか?神社は宗教法人。法律の下で定められていることが沢山あるわけで、私ははじめから神社に就職する、会社に就職するのと変わらないと考えていた。神職だって労働者なのである。まして、専門職として生きていこうと思えば税金の事だってある、健康保険のこともある。労災だってある。はっきり言えば、しっかりと一般会社のような給料を前提とした仕組みの中で働かしてもらえなければ将来が心配で無理だと思っていた。安心して働きたい。これが先ずはじめにあった。

宮司就任は白紙に

正階の取得と同時に宮司を交代すると言う話だった。引き継ぐ予定だった神社は八坂神社を本務として守谷市内の兼務神社併せて全9社。先行して先ず八坂神社から。しかし、その話はあっという間に流れました。当時の氏子総代何名かが宮司の辞職を拒みました。

「宮司、まだ辞めなくても良いだろう?下村は若いんだからよ」

これで私の宮司就任はなくなった。自身が宮司に就任するまではこれから8年の月日が流れた後だった。私にとって禰宜として与えられた8年間は力を蓄えるための有り難い期間だった。研鑽を積むための時間。あのときに宮司になっていたらと思うとゾッとする。おそらく、辞めていただろう。出来なかっただろう。この8年間は力を培い、知識と蓄え、氏子総代と理解を深め合う大切な時間になったんだ。

何度も言うが私は宮司になるのが目標ではないんだ。どこかの神社では宮司職を争ってどうしようもない事件もあるようだけど、私はただ職業としてしっかりと仕事をしたかった。神職として一生懸命働いて下火になり始めた大好きなお祭りを何とかして、普段お参りに来ないような神社を綺麗にして見つけてもらい社頭が賑やかになって、労働者としてお給料をもらい…それだけだったんだ。でも、それから月給として給料が出るまでは2年くらいかかったのかな?給料支給者ある宮司(社長)が兼務で不在なんだから給料なんて出るわけがないよ。独身で実家にいたから持ち堪えられたんだろうな。親には感謝しないと。

宮司のいない神社に禰宜がいる

これから8年間、八坂神社は兼務宮司が管理し禰宜のみが本務といういびつな仕組みの中で運営することになった。普段は責任者無き会社のようなものだ。そして肝心な事がもう一つ、氏子総代が神社に神職がいて働く事への理解がまだなかった。しょうがないよ。今までいなかった人間が急に働くってなったんだから。宮司は神職の資格を取らせて八坂神社に登録するという話まではしていた。でも、八坂神社で常駐して働くという話は一切していなかった。その後もなかなかしてもらえなかった。この話は宮司と氏子総代の間で解決してもらうしかない。代表役員が神社に宮司がいることはどのようなことになるのかを説明してもらい理解を求めるしか方法がないのだ。私が言ったら火に油を注ぐだけだ。しかし、いつ解決するか分からないものをいつまでも待っているわけにはいかなかった。お札もないし、お守りもないし道具も揃えなければならないし。先ずはそこから始めよう。もう祈祷は出来ませんは通用しない。働く環境はなくても働く準備を始めないと。

宮司不在が宮司常駐にかわる。それによって神社は大きな運営の変化が起きてしまいます。これをどのように理解してもらえるか。誰が宮司になっても最初にこの問題に直面すると思う。宮司が不在の中で氏子さんがずっと守ってきた神社に入っていってどうしたら一緒になって守っていこうという形に出来るのか?20代の私を80代の皆さんにはどのようにみえていたのか?想像するに容易い。私という人間を信用してもらえるように一層の努力が必要だと感じるスタートラインだった。

まるでデンプシーロールを食らっているような…そんな始まりだった。

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